まず、二番目のロット。第一章で触れた白加賀の5kgは、瓶の中で梅雨明けを待っている。二番目に仕込むのは、やわらかな果肉と上品な香り、食味で評価の高い「南高梅」を7kgとした。この梅たちは長期保存しながら経年変化を調べてみよう。
6月30日。いつもの売り場で、和歌山県産、南高梅2Lサイズを7袋購入。ブランド梅だけあって、熟し具合も揃った良い感じの梅を手に入れることが出来た。こいつも塩分15%の「やや減塩」で試してみる。平日の夜だが、娘の小豆に手伝ってもらう。洗った梅を丁寧に拭きながら、成り口のへたを取り粗塩をまぶしていく。そして桶の中に広げた漬物袋の中に、丁寧に詰めていく。なお漬物袋は国産品で食品衛生法に適ったものだけを使用している。詰め終わったら上からまぶし残した塩をざっとかけて、袋の口を緩く縛る。あとは重しを載せるだけ。重しは漬物石、ダッジオーブン、酒瓶で計11kgとした。
前章でも水上勉さんの言葉をご紹介した。その折から同じ本を読み返していて、ほかにも良い言葉に出会えた。
梅にも醍醐味があって、その味は、ぼくという人間が、梅にからんで生きてきているからである。
突き刺さる言葉である。では、僕が漬けて干す僕の梅の味には、僕自身が絡めているだろうか。己にそう問いかけることには、多少の勇気が要る。そしてまた、こういうことを問いかけること無く、考えてみることもせずに梅干を作っていたおのれが恥ずかしい。
7月3日。南高梅はたっぷりの梅酢を上げてくれた。桶を空けねばならんので、またビンへと引っ越しを行う。
続いて、三番目のロット。
7月4日の土曜日、朝から売り場へと向う。おお、群馬県産の『見切り品』が出ている。品種等級の記載が無いのは、売れ残ってしまった梅の中から傷んだ物を取り除いた混成チームということだろう。圧倒的に安いので6袋全部を購入、使えない梅は諦めて、きれいな物だけを漬け込むとしよう。なあに、僕の弁当用だ、見た目など気にしない。
洗って見ると、数粒、傷んでいたので取り除く。このロットは15%とかで仕込むと黴が出たり発酵が起きたりしそうだから、20%で仕込む。大樽に隙間無く並べ、1.2kgの粗塩をまぶした。重しは12kg。
24時間後には七分ほどまで梅酢が上がっていた。見切り品だからもう少し慎重に、黴を警戒し続ける。
おっと、四番目のロットだ。これは心に残るものになるに違いない。
というのも、拙宅の庭の梅の樹が、今年、これまでで一番の実なりなのである。特に手入れをしている訳ではないが、庭の梅で仕込む梅干というのが、嬉しい。この二、三日で落ちた梅を集めてみると2.5kgある。やはり黴を懸念して20%の塩分。小さな桶を探し出して、ペットボトルで8kgの重しから始める。始める、というのは重しは徐々に軽くしてやるからだ。なおこちらも24時間後には梅酢が浸かるぐらいまで上がってくれた。
人は、手でつくることにおいて、はじめて自然の土と共にある。
これも水上勉さんの言葉である。欧州に出掛けてワイナリーのあるじから話を聴いた折り、その熱さに打たれた、という文脈において、このことばが出てくる。庭の梅の樹は、僕が植えたものでもないし手入れしている訳でもない。それなのに不遜極まりないが、僕自身も少しだけ、自然の土と共に存在できるかもしれない。
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