2016年10月24日月曜日

遠見尾根の秋








少し前。
久々の休みに、遠見尾根を訪れた。天気予報は雨。でも気圧配置から高所は雲の上と睨んでテレキャビンに乗る。雪の無い遠見尾根は始めてだ。



ガスの中をゆっくり登っていく。やっぱりだめかな。




地蔵のケルンまでは全くの無視界だったけれど、小遠見山のてっぺんに近づくに連れ、時折ガスが切れる。一瞬、遠く雲海を見晴るかすと、雲の上に近づいたと判る。




小遠見の山頂には、大勢のハイカーたち。みんなガスが取れるのを待っている。






小遠見の山から徐々にガスが抜けていく。





うん、錦秋のトレイル。




梢に、空に、秋の深さを知る。





ついに、雲の上に出た。

冒頭に掲げた、鹿島槍北壁と天狗尾根上部の様子も、この瞬間に眺められた。




雲海の向こうに白馬鑓ヶ岳と、その北の稜線。八方の尾根も賑やかだろうな。



 

五竜のお山はガスの向こうだった。
中遠見山頂にて、山の神さまにお供えを差し上げる。もちろん、むしゃむしゃむしゃ。




地蔵の辺りはまだガス気味。池溏が映す空の色も暗い。





ペアリフト、すごく怖い。足下の空間が、あまりにも虚無に思えてしまって。

そうだ思い出した、僕はゲレンデで滑った経験が無いので、リフトという乗り物に始めて乗るのだった。




アルプス平でお昼ご飯にする。この日は、お肉を味付けして持ってきた。こいつを出汁と一緒にうどんに投じて味わう。温泉玉子はコンビニで調達、青ネギは庭の菜園から。

アサギマダラがひらひらと舞っていた。






山の神さま、ありがとうございました。




2016年10月16日日曜日

火星でねこを売る


或る夜。

僕が帰宅すると、中学生の大豆が茶の間で夜食を喰っていた。あぐらにねこを載せて玉子掛けご飯をぱくつく姿は、なんともたくましいものである。

「大豆、ただいま」
「おう、おやじ、おかえり」

ウイスキーでマグを満たし、部活の事などを話していると、大豆は火星旅行だか火星移住だかの話を振ってきた。TVでやってたらしい。大豆の膝のねこが火星と聴いて耳をぴくりとさせた。どうやらこいつも、火星旅行に興味を抱いているようだ。

「そうだ大豆よ、おまえ大金持ちになれるぞ、ねこを売って来い」
「へ?」
「だからさ。この辺野良猫が多いだろう。こいつらをリアルねこ集めしてな、さらに増やすのさ」
「へ?」
「それで、火星に運んで売ってくるのだ。火星人はねこを見た事が無い。絶対欲しがる。」
「あ!」

「考えてみろ。
 もし、生きてるティラノサウルスの赤ちゃんが売ってるとしよう。
 なら、世界中の大富豪が、いくらでも金を出す」

「うほ!」

「同じことが火星でも起きる」
「おおお!」

「それでな、マネーの替わりに、火星にしか存在しないレアメタルで払ってくれる。おまえは地球に無かったレアメタルを持って帰る。世界中のハイテクと軍事産業を支配できる。おまえは地球の支配者になれる」

「うおっしゃぁぁぁ!」

 この勢いで、ねこは振り落とされた。火星に売られていくという運命を、知っているのだろうか。知っているならば、どう受け止めているのだろうか。ドナドナなのか。スプートニク2号に載せられて地球周回軌道を回ったライカ犬のことを聞かせてやろうか。そんな思いがよぎったが、僕と大豆はねこを売って儲ける話の方が大事で、ねこを放っておいた。

「いろんな種類が居た方が良いが、雑種で良いよ。丈夫だって言うじゃないか」
「三毛猫とか高く売れそうだ」

「あれだぞ、レアメタルでいろんなブレークスルーが起きるな。充電不要のバッテリーとか」
「CPUがもっと早くなるとかな」




 「こんなやつでも、買ってくれるかな」
「向こうじゃ美意識も違うだろう、地球で最も醜いねことして、一番高く売れる」


 夜遅くまで密談は続いた。ねこはふたたび大豆の膝に戻ってごろごろ唸っていたが、眠くなったのだろう、大豆の部屋に行ったようだ。

「おやじ、おれ寝る。楽しみだよ」
「おやすみ、楽しみだな」





数年後には、僕のせがれが地球に無いレアメタルを手に入れる。僕は仕事を辞めて、彼のマネージャーになる。莫大なマネジメント報酬をせしめて、そうだな、南の島でも買って優雅に暮らそう。