悪夢だった。
有り得ない光景が広がっていて、僕は早朝の庭に呆然と立ち尽くすしかなかった。
芋畑が、消えていたのだ。
四月に植え付けた二種類のじゃが芋。シンシアとキタアカリの畝には、数日前までは緑の魔境を思わせるほどの力強さで茎も葉も高く茂っていたのだ。先日もすぐ傍らの梅の樹の下で落ちた実を拾いながら、お盆前に子どもたちに掘らせるか、と考えたのを覚えている。
それが、ない。土が畝型に露出して、枯れたようにしなびた茎が長々と横たわっている。もう声が裏返っちゃって「じょこいっちゃっちゃの」とか変な言葉が出た。
やがて我に帰って、しゃがみ込んで横たわる茎と消えかけた葉っぱの残骸を観察する。すると居るわ居るわ、黄色い身体にトゲが突き出た蟲が大量に蝟集している。びっしり。こいつらが突如として沸いてきてじゃがいもの葉を食いつくし、茎をしなびさせて畑を消滅させたことは容易に想像できた。ていうか、眼前の事実で消え残ったわずかな葉っぱを齧り続けている。くっそやられた感に打ちのめされそうになりながら、足元の土を少し掘ってみる。土の下から芋が無事に顔を出したのに胸を撫で下ろし、すぐさま報復を考えた。
みなごろしにしてやる。
▲こいつはトマトの樹を食害し始めた成虫(幼虫の写真は自粛する)
いちど書斎に戻って、google先生に尋ねてみる。ジャガイモ、害虫の検索で、全く同じ蟲の写真がずらっと出るではないか。ぐぬぬぬぬぬぬぬ、テントウムシダマシ、断じて許さん。こいつらはナス科の作物にも付くらしい。庭の反対側には茄子、胡瓜、トマトなどが植わっている。被害が広がる前に殲滅させねばならん。ざっくり調べて薬剤を探すと、天然成分を謳ったスプレーが見つかる。この日は休みだったので雨の中、カブを駆ってホームセンターの開店と同時に薬剤を購入、引き返すやすぐさまツナギに着替えてスプレー片手に、かつてじゃが芋畑だった場所に立った。
雨は上がっていた。みておれテントウムシダマシ。一匹たりとて、この庭で生き延びることは許さぬ。僕は憤怒に燃える瞳から烈火をスパークさせ、かつてじゃが芋の葉っぱだったところに向けてスプレーをかけた。奴らはころころと落ちる。念のために、長靴の底で潰す。いのちを潰していることに躊躇(ためら)いはある。しかし菜園の作物を守らねばならないのもまた、僕の務めである。
大学生のある夏、旅の途中、京都の伯父の家に泊めてもらった。家というか、戦国時代の動乱にも焼けずに残り、今では拝観料を取るような古刹である。伯父は住職であった。翌朝、庫裏の裏の菜園でトマトだか茄子だかをむしりながら、伯父は箸で青虫を捕まえていた。青虫を集めては容器に放り込んでいた。そうか、お寺では殺生をしないんだな。僕はそう感嘆した。しかし伯父は、裏庭の奥にある鶏小屋に向い、数羽のチャボにこの青虫を与えた。これが好きなんや、とか言いながら。僕は、殺生とは何か、仏の教えとは何か理解している訳ではない。しかし伯父の行動にひどく混乱してしまって、その混乱は未だ解決できていない。
話が逸れてしまった、申し訳ない。
とにかく、僕のじゃが芋の地上部を数日のうちに食べ尽くしたテントウムシダマシ(ニジュウヤホシテントウ)を放置しておくと、茄子もトマトもみんな喰われる。だからこれを防ぐために駆除する。
▲被害を受けたミニトマトと犯虫一味(右)
▲羽化直後の成虫
じゃが芋畑への散布が終わったので、庭の反対側にある夏野菜畑の様子を確認してみる。居る。さっき見た幼虫とは違った、てんとう虫そっくりのテントウムシダマシ成虫があちこちに齧り付いている。ゴム手袋を付けてひとつずつ、潰す。一時間以上掛けて、ひとつ残らず潰す。夕方も、翌朝も。
害虫は駆除された。じゃが芋の葉も茎も失われたので、もう掘り上げるしかない。例年より二十日早いがやむを得ず、畝をスコップで崩していく。小芋がどんどん出てくる。これから太ろうという時期に葉をみんな喰われたのだ。くそっ、収穫は昨年の半分と見た。梅雨明けの太陽で光合成が行われて、でんぷんが貯め込まれるはずだったのに、蟲どもめ。
呑気に構えてねえで補食しろよ。
多すぎてそんなに食えねえよとトンボから聞こえて来そうですな(;・∀・)
返信削除でもなんとなくですが、わたしが出会ったトンボはみんな呑気でしたよ。
作物の難しさを改めて知った記事でした。
お疲れ様です…。
遅くなりました。
削除おいらは蜻蛉の友人知人が居ないので、呑気かどうか知らなくて。
今回ようやく知り得た訳でしていてててててて。
いえ、害虫はまだたくさん居ます、湧いてきます。
違いました、じつはデスクに向うことが出来なくなってしまって
しばらく更新とかお返事とかがどうなるかわかりませんが
まあ、とにかく暑中お見舞い申し上げます。
で。みなごろし作戦完了したのかな?
返信削除だんちょうすいません、ほら、Macが乗ったデスクって
削除座卓タイプだったの覚えておいでです?
なので、曲がらない脚を無理矢理デスク下に押し込んで
寝転んだような変な姿勢でタイプしてるんですわ。
あとで一本記事上げたら、しばらく休む宣言するかも。
いや、いてえいてえ言いながら、ずく出して書いてるかも。