2015年5月6日水曜日

北穂高岳

2015年5月3日から5日にかけて、穂高の氷河圏谷・涸沢に過ごした。

最終日の5日は快晴に恵まれ、残雪の北穂高岳へハイクアップ。山頂からは穂高の岩の伽藍、槍へと続く稜線、そして北アルプスのほとんどの山の眺めを満喫。






2015年5月3日午前4時、山靴に足を入れまだ明けやらぬ街を歩き松本駅を目指す。女鳥羽川の水面に、ようやく明るみ始めた美ヶ原の向こうの空。


松本駅にてくわ先生の迎えを待ち、やがて滑り込んできたドイツ車の助手席にケツを据える。一路、沢渡へ向けて走りながら、再会を喜びあう。うむ、山の仲間とはいいものだ。



沢渡からはタクシーで上高地入り。晴れた空の下、吊尾根が迎えてくれた。




横尾の大橋を渡って、





春の横尾谷に屏風岩を眺めて。







横尾本谷との出会いからは、南岳の獅子鼻岩が見えてきた。

今から数年前の夏、槍から南岳への稜線歩きをした時の記憶が甦る。そのとき、あの獅子鼻岩の上に、魂の欠片(かけら)を残してきたのだ。



獅子鼻岩、かっちょえええええええ。 



横尾本谷を右に分け、涸沢側の雪渓を登って行く。



38リットルにテン泊2泊分の装備、毎回ながら馬鹿じゃないかと、わかってる。でもザックを大きくしてしまうと、酒やら肉やら、暖かいマットやら、増えて増えて担げなくなるのだ。だから大きな容量が必要な山旅には行かない、と決めている。その結果、見苦しい外付けになる。




つまりですね。穂高の谷底でも、行動食は大福ですよ。 







カールの底が近づいてくる。のそのそ、登って行く。


受付を済ませて整地を少し、エスパースを張る。ここが、この圏谷での我が家。

竹ペグ埋めたりする作業を残しているのだが、もう喉が渇いて乾いて、死にそうなのだ。そこでヒュッテに移動、くわ先生と酌み交わしながら山を、人生を語り合う。うは、先生大人やなあ。








一夜が明けて、5月4日。朝からガスが濃い。ときおりフライが雨に叩かれる。気温も高く、雪はぐだぐだのぐずぐず。よって本日の行動は断念。



することもなく朝から酒を舐めていると、ヘリの爆音が聞こえてきた。
こんな悪天候で? 
どこかで事故?


すると鮮やかなアクロバット飛行で機体が圏谷の底に現れ、ヒュッテにモッコを降ろしていった。






昼近くなって、後発のメンバーたちも顔を揃える。信じられないのは、先に書いた獅子鼻岩の上に魂を置いてきた、その時のひとりが顔を見せに来てくれたこと。一緒に穂高に登るためではなく、ただ、金沢から会いに来てくれて、そのまま雨の中を帰っていった。信じられない。僕は友のためにそこまで出来るだろうか。



雨の中、宴。
もう何回目になるか数えてもいないけれど、春の山の中で、年に一度だけの宴。語らいに熱が入り、僕は写真に残すことも出来なかった。師匠、部長、そしてお嬢、ありがとうございました。


その後は酷い雨だった。テントをゆらす風も、強過ぎた。ベンチレーションが風でテント内部に押し込まれ、そこから雨が吹き込んでくる。シュラフも何もかも、ずぶ濡れだった。



夜明けを迎える。5月5日、雨が去って、穂高は晴れた。



宴会班の見送りを背に、北穂沢へと向う。



次第に斜度を増してくる雪面の登り。ツメの方では雪壁にも感じられた。


この三人は、かつて獅子鼻岩に魂を置いて来てしまった男たちだ。昨日、雨の中を帰っていった男も、同じだ。我々は置いて来た魂を取りに戻る必要があった。

僕たちは北アルプスのそこかしこに、魂の欠片を置いてくる。これを思い出したり、取りに戻ったり、あるいは眺めたり、そのために山に来なくてはならない。



コルを抜けて岩場を少し這い上がって、北穂高岳の北峰てっぺんに立つ。



槍を眺める。
キレットのすぐ向こうに、置き忘れた魂の欠片がある。三人でそのことを確かめる。


後立山にも白馬にも、同じようにかけらを残してある。山に来る理由は、目的と言ってもいい、山に来るたびに増えて積み重なっていく。

だから、僕はこうしてこの日も、山に居た。山に来ることが出来た。
























北穂の小屋で珈琲をいただいて、テン場の方を覗き込んで泡を喰う。 

宴会班が、撤収を始めているのだ。




魂の欠片を置き忘れるとか、そんな感傷的な話じゃない。

僕らは置き去りにされようとしていたのだ。
あの急な斜面をすっ飛ばして下る訳にもいかない、コルからはごそごそ慎重に下り、斜度が緩んでからは尻セードまじりでテン場に飛んで帰る。


先に下山する宴会班を見送り、撤収。何かを食べる時間も無く、氷河圏谷・涸沢の地を後にする。陽射しに緩み始めた雪渓をさくさく、降りていく。   



穂高よ、さらば! また来る日まで。



陽光が眩しい。




横尾本谷の向こうに、獅子鼻岩をもう一度。





この山旅で酌み交わした諸賢、北穂ピークの槍隊放題メンバー、そして山の神さま。こころより、魂より、ありがとうございました。


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