2014年6月22日日曜日

梅仕事2014、第一章

またこの季節が巡って来た。八百屋の店頭に青梅が積まれた光景を眺めると、なぜか背筋がびしっと伸びて「うむ。」という呟きが漏れる。僕は梅酒づくりはやらないので、青梅の次に入荷しはじめる、熟した黄色い梅への備えである。切り立てといって寸胴型の瓶(かめ)を洗ったり消毒したり、塩を買っておいたりと忙しい。どの等級、品種を塩分何%で何キロ仕込もうか、と財布との相談もある。まあとにかく、梅干づくりが近づくと落ち着かないのだ。

台所の床下や自室の押し入れには、まだ10kg以上の在庫がある。一昨年、昨年のものだ。こんなに在庫しておきながら新たに漬け込むのはいかがなものかと、家人や婆さまは批判的な視線を投げてくる。しかし梅の購入から仕込み管理保存まで、豆ども(こどもたち)には手伝わせるけれど家人の負担を求めたことなど、一度も無い。だから尖った視線も皮肉も一切無視する。っていうか、梅干を誰よりたくさん喰うのはお前だろうと出かかる文句も、黙って呑み込む。



たかが梅の実を、塩にまぶしたりお陽さまに干し上げたりすることに、そんなにちからこぶを入れなくても良くね? 確かにそうかもしれない。かもしれないが、僕にもこだわりがある。

僕が大好きな水上勉さんがその著作『土を喰う日々』でこう書いておられる。

まことに、人は、梅干一つにも、人生の大切なものを抱きとって生きるのである。

またこのようにも。

世をたぶらかして死ぬだろう自分の、これからの短い生のことを考えると、せめて梅干ぐらいのこしておいたっていいではないか。


そう、梅干はちゃんと作れば人の一生より長い時を刻むことがあるのだ。だからこそ手抜きをせずにちゃんとちゃんと、仕込みたいのだ。



 
 

平成26年6月21日。いつも覗く売り場で、群馬県産『白加賀』Mサイズ3kgを購入。1kg、298円なり。過去にはキロ980円の南高梅5L等級なども漬け込んでみたのだが、僕には安い梅でいい。これは妥協の結果ではなく、白加賀の肉厚で濃厚な食味、それでいて種の奥から香るあのフレーバーが好ましいのだ。また皮が厚いが故の破れ難さは、土用干しでの干しやすさに通じるし、1年2年と寝かした白加賀の実の、その皮は柔らかくふっくらとなってくる。



ざっと洗いながら、汚れを流す。あくを取る、という手順を聞いたことがあるが、あまり長く水に浸すのも梅の実を傷めそうなので僕はやらない。



笊に開けて水気を良く切る。まだ青い実がかなり混じっている。こいつらは一日置いて塩をまぶしたいところだが僕の都合もある。今回のロットはこのまま塩漬けにする。



黒くなったヘタを丁寧に取り除き、ホワイトリカーにくぐらせる。そのまま瓶の中に並べていく。『あらじお』を使用して塩分18%、減塩はしない。




これは昨年の白加賀。瓶を空けるために、ビンに移ってもらう。



ビンは冷暗所で、何年のちまで残っていることやら、休んでいてもらおう。もちろんキャップを締めてから。



4kgの重しを乗せておいたら、一晩でここまで梅酢が上がって来た。梅の実が完全に浸かれば、黴発生の懸念が薄らぐ。梅干づくりは半分成功と言ってもいいだろう。



梅酢の上がりを確認できたら、このまま土用の頃の炎天を待つ。柔肌を太陽に晒して、灼き上げるように炙って、梅の実は梅干へと変貌する。こうタイプしながら、じゅるっと音を立ててしまった。







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