2014年10月5日日曜日

『縄文の力』/『北アルプスの渓谷をゆく』

ムックネタをふたつ。

普段は書店に足を踏み入れないように注意している僕でも、やむを得ず書店の棚を眺める場合がある。指定された待ち合わせ、時間つぶしなどなど。書店を敬遠しているには理由がある。僕はかつて重度の活字中毒者だったのだ。信州に移る時にほぼすべての書籍を処分して以来、できるだけ本を手にしない、を心がけてきた。しかし、不注意な一冊の購入が「土手に開いた小さな穴」となって.... あれから何度も後悔を重ねてきている。




そんな僕が、いちばん怖れているのが平積みにされたムックたち。料理本、酒やワインの特集、工芸、そして山関係。なかでも無双に凶悪なのは、平凡社の『別冊太陽』。特に芸術家、文学者系特集。専門に扱っている神田の古書店とか入ったら無事に出てくる自信がもう無い。そのぐらい恐ろしいのに、松本パルコの地下で偶然表紙を見ちゃった。平積みのやつを間近に見て、不注意にして手に取ってしまった。



この表紙のヴィジュアルで瞬殺された。縄文のゆるキャラとかじゃなく、縄文人が数の概念を持っていたことを示す物証。


中身を開いて悩殺された。


写真に記事に、悶絶死するはめに。


おいお前!






いやあ。丁寧に企画をまとめてきちんと編集されたムックというのは、美しいのですよ。



もうめろめろ。でろでろ。


表紙コピーにあるように「自然との共生を一万年続けた縄文コスモロジーの英知」が切り口。ヴィジュアル化しやすい道具や造形も重要な要素だけれど、彼らがどのように世界を捉え、どんな暮らしを営んでいたのか、にきちんと焦点が当てられている。さまざまなテーマごとのコラムあり、代表的な遺跡の発掘研究事例の紹介あり、現代考古学のフロントエンドが垣間見える。

僕にはとても印象深かったコラムがある。北海道で発見された肢体が不自由な人物の遺骨。彼は自力で歩いたり移動したりできない状態で、寿命尽きるまで十数年を生きていたらしい。つまり、手厚い介護を受けていた、と考えられるという。漁労採集によってかろうじて命をつないでいたようにも受け取れる縄文の時代、ひとびとは他者に対する温かいまなざしを持っていたのだろう。

でもやはり何より、縄文遺物のヴィジュアルが凄い。

平凡社 2013年11月15日 初版第一刷発行





 ■ □ ■

山道具屋が山関係の書籍雑誌を豊富に揃えているので、普段からギア系と燃料系以外では下を向いて歩かねばならない。うかつに新しいテントの展示とか何かに引き込まれたら危険だからだ。それでも地元の新聞社が発刊したやつがレジ横にあって、ゴング直後のフックを喰らった唐突さでまさかのダメージを受けたことがある。


 
圧巻なのが表紙。残雪期の劔岳池ノ谷。撮影場所は左俣だろうか、三の窓が文字通り窓となっている。すんげえ。


ふんだんに使用されている空撮写真。あふれでる生唾。








鹿島槍荒沢奥壁だって。もう、はぁはぁ。




源流部への遡行も。個人的には遡行図を載せて欲しかった。え? 自分で行って書け? ごめんなさいそうします。



北アルプスを水系で分け、黒部川、早月川、常願寺川、梓川、中房川、高瀬川、姫川、高原川、乗鞍岳の滝と湖沼それぞれで章立てされている。地理的地質学的な河川の成り立ちや人間との関わりなどの解説に続き、名だたる名所はもちろん、秘境中の秘境に分け入って撮られた圧倒的な写真の数々。それぞれの水系への理解を深めてくれるとともに、ヴィジュアルがとにかく凄い。文は、菊地俊郎さん。

信濃毎日新聞社 2012年7月14日 初版発行



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