2014年10月4日土曜日

肴は炙った烏賊でいい

するめ烏賊を、茶褐色のどろどろとした漬け汁から引き上げながら、僕はごくりと生唾を呑み込んだ。

なんという甘い香り。

この香りは、醤油に浸された麹(こうじ)が醸したものだ。醤油麹。前項で僕は、この醤油麹に漬け込んだ唐辛子のペーストのことを書いた。漬け込んだ唐辛子をさらに処理して調味料として使う、という面倒くさい話だが、醤油麹自体をシンプルに使う手法もある。こいつは、肉や魚の下ごしらえにおいて、驚異の旨味を生ぜしめる悪魔の調味料でもあるのだ。



これ。容器の中には1カップの醤油麹と二杯のするめ烏賊。烏賊の胴は開いてゲソ、肝を切り分けてある。





数時間、このまま冷蔵庫で休ませたあと、漬け汁から引き上げる。麹の巣でもある米粒は、なにやらムシの幼体にも見えてしまうので取り除く。

こいつを笊に広げて、しばし屋外で風に当てる。ねこに見つからないように、少し高いところで。





夜の帳が降りた頃。庭に出て干しておいた烏賊を取り込む。




あやかし、と表現したいまでの照り。なぜか、眺めていると背徳感が僕のこころを覆う。炙って味わいたいところではあるが、ケムリの問題もあるので表題詐欺の誹りは免れ得ないのだが、フライパンで焼く。




肝は崩れてしまうので、焼き魚用のアルミホイルに載せておく。こうすれば、崩れた肝にゲソを絡めて....




あぐぅ。

もうこの辺で我慢ならず、蕎麦猪口を満たした酒を呷る。酒はぬるめの燗ではなく、冷蔵庫できりりと冷やしてある。銘柄は、信州北安曇池田の地酒、大雪渓酒造の『山乃酒大雪渓 そば前酒 安曇野伏流水仕込み』。







ううううう。



しみじみ飲めば しみじみとぉおおお....


ある宵の、しみじみ染みる味わいであった。醤油麹は、袋売りされている500g程度の麹を1Lの醤油に混ぜ込み、一週間程度寝かせてから使用する。好みで配合を変えたり、生姜や唐辛子を混ぜたり。真夏は常温保存中に黴が生えることがあるので野菜室に置いておく。なお、僕は昨年秋に仕込んだ醤油麹に、適宜、醤油または麹を加えて使い続けている。




今が旬の生鮭のハラスも格好の漬け材になる。このほか鶏の手羽先、ささ身などもお試しあれ。





4 件のコメント:

  1. うぐぐ、こういうのを呑み屋で出してくれれば毎晩でも通うのですが。
    しみじみと~ たまらんです。今宵もどっかに呑みにいきたし。

    そば前酒、蕎麦屋の酒は上物が置いてあって、京橋の蕎麦屋、最近行ってなくて
    「そのうちにいってにるかぁ」などと思うこのごろです。

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    1. 師匠、酒肴に手間を楽しむようになってきました。
      晩飯に鰯の刺身を味わったのですが、青じそを刻み込んだ味噌で、へへ。
      蕎麦屋の酒っていいですね。目黒の「なな樹」って処を思い出します。

      新蕎麦がもうすぐです。楽しみですなあ。じゅる。

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  2. おんりーめもりーごーおんばああああい。
    あゝ、美味そう。この時間見るんじゃなかった(;∀;)

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  3. 想い出だけが 行き過ぎるぅー
    さかしたさん英訳をありがとうございます。
    飯テロなる言葉があるそうですが、ご迷惑おかけしました。
    いま、キッチンではスペアリブの柔らか煮というのをことこと。
    日本酒と蜂蜜、湯をあたためてそこへ焼かないスペアリブを、どん。
    灰汁をすくって数時間、まあ牛蒡や蒟蒻も煮ながら用意して
    最後に行者にんにく味の醤油でまとめあげるという、
    まあオーケストラのような料理でごわす。後日レポートいたします。わはは。

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