2016年6月12日日曜日

山独活を鰊と炊く


五月の終わり、ハイキングから帰ると山独活(やまうど)が届いていた。

乗鞍高原の天然もの。この季節だけの、至高の味わい。半分はご近所の友人宅にお裾分けしたのち、食べ方をあれこれ思いめぐらせ、炊き合わせで頂くことにした。






まだ土が着いている。ありがたい山のめぐみだ。





炊き合わせるに、身欠き鰊を買い求めてきた。許されるならば、かちかちに干し上げられた本物の身欠き鰊を使いたい。今回は、懐具合と下拵えの手間を勘案し、山独活に手間を取られるから、とアメリカ産のソフト鰊で妥協する。





鍋に番茶を煮出しておく。これは番茶の渋み、タンニンでソフト鰊の臭みを抜くため。





煮立たせて中火で数分置いて、番茶は流してしまう。





そこへ、鰹節と昆布で取っただしと黒砂糖、たっぷりの日本酒を注ぐ。弱火でことこと、小一時間ほど炊く。





その間に山独活の下拵え。畑の栽培ものと違ってそこそこ灰汁がある。重曹をちょっぴり使って灰汁抜きしよう。





 たっぷりの湯を沸かしたら、山独活を投じて下味の塩を少々、そして重曹をひとつまみ。





ぶわあっとなったらすぐに火から下ろして笊にあける。流水で一回だけ、洗う。灰汁抜きしすぎると持ち味も抜けてしまうからだ。





若い穂先と軸に切り分けておく。来年は、この切り分けを先にして、穂先の灰汁抜きはせずにおこう。





ことこと煮詰まってきた鰊の鍋に、みりん、そばつゆの順に加える。そこへ、山独活の軸だけ放り込んでやる。ひと煮立ちしたところで鍋を火から下ろす。



冷めて味が染み込むのを待っている。

目の前に、鍋の中に、香り高い山独活と鰊が居る。まだ冷めていないから、箸を出せない。堪えられない、我慢が出来ないから仕方なく蕎麦猪口に酒を満たしてやる。冷やで良い。立ったままぐびり、と呷りながら鍋の中を見る。山独活と鰊はそのまま居る。もう、冷めるまで、と我慢が出来なくて、少し味見する。

ふわあああああ。

舌の上から口中に広がった、山独活の香りとほろ苦さが鼻孔に回る。鼻孔に回ってきた瞬間に、ああ、春はいつの間にか満ちて、もう夏が兆しているのだと知る。鰊の脂の濃厚な照りが、山独活の渋みと溶け合って、どこまでも嫌らしくない。冷や酒を口に含むと、酒精が脂を溶かしながら喉を降りていく。

ああ、米と麹と、山独活のある列島に生まれたことが、限りなくしあわせなことに気づかされる。海の彼方からは鰊が届いて炊き合わされて、僕をくらくらさせている。




山の神さまありがとうございます。今宵はこれを堪能します。海の神さまありがとうございます、お恵みを授けていただきました。





身欠き鰊を炊いた所へ載せた山独活の穂先は、とても柔らかく官能的で、目の覚めるような鮮やかな緑をまとって悩ましく、僕はまだ酔ってもいないのに幻惑されて、そのうち空になった皿を惚けたように眺めているしかなかった。






2 件のコメント:

  1. imalpさん、またまたよく知らないのにすみませんm(_ _)m。山独活と鰊のたき合わせ
    本当に美味しそうですねぇ。仕込みが素晴らしいですね。料理人⁇ 私、鰊はフキと炊くくらいで…勉強になりましたm(_ _)m
    昨日、雨飾山に行ってきました。息子は明日の美ヶ原登山を心配してか、早朝3時にふられた私…でしたが、行って良かったなって感じる山行でした。雪解けすぐに魅せてくれるシラネアオイ。これを見る為に登っているという方がほとんどでした。登山口から、おばけ水芭蕉に迎えられ、舞鶴草、サンカヨウ、雪渓近くで5cmちかいカタツムリを見つけ写真を撮り^_^、イワカガミ、ゴゼンタチバナ、ニリンソウ、ショウジョウバカマ、カタクリ、キヌガサソウ…素晴らしい花々に出会い、幸せなひと時でした。
    登山道で、根曲がり竹をいただいてかえり、コンロで焼いてたべました。結構、美味しかったです。imalpさんの料理、楽しみに拝見させていただいてます。


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    1. マダーム。
      いつもありがとうございます。

      >雨飾山に行ってきました。
      トレビアーン! この時期の雨飾山、すばらしい。トレビアン。
      今後は、マダム・アマカザァリと呼ばせていただいて、構わないでしょうか?

      トレイルの傍らに咲く花々が、夏めいてきましたね。
      いつの間にか、北信濃でも、季節は夏に向かっていたのですなあ。

      そうそう、初夏と云えば生つばが湧いてきます。
      セーヌの川岸の専門店で味わう初夏の生牡蠣、これもトレビアーン。
      サンジェルマン・デ・プレ界隈の思い出は、いつも初夏の牡蠣の味わい。

      >根曲がり竹をいただいてかえり、コンロで焼いて
      根曲がり竹、すばらしい。当地ではなぜかサバの缶詰と炊きますね。
      僕はサバ缶をそのまま食するのですが、婆さまなどは
      「ひえー そのまま食べるのかい?」なんて云います。
      僕はサバ缶が好きで好きで、おっと、それは今度また書きますね。

      え? ムシュゥ・サバカァンと呼んで下さるのですか?
      すばらしい。照れてしまいます。シャイなんです。

      >料理人⁇

      ははは、僕の、パリのレストランでの修行時代のこととか、
      そんな話をお聴きになりたいのですかな?

      それともリヨンの店に引き抜かれて移った頃のことですかな?
      ま、そのうち、そのうち。

      実際のところ、リヨンにもマルセイユにも、パリにも、
      それどころか、ナリータにも行ったことなんか有りませんって。

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