2016年2月7日日曜日

妙義山の尾根



これはもう二週間前、膝までの雪が降った数日後の週末のこと。

平日で遊べなかった悔しさに敵を討とうと、雪道具を背負って家を出る。サドルに跨がり、つるつる滑りながら近くの浅間温泉までやって来ると、雪に埋もれた野球場のそばにチャリを停める。





市街地にもまだまだたっぷりの雪。ここから這い上がる尾根道にも、もちろん雪。鼻歌まじりにウエアを整えゲイターを履き、ストックを伸ばす。野球場の前は妙義山と呼ばれる小高い丘になっており、丘を登って里山に分け入ってどんどんのぼり詰めていくと、美鈴湖を経て美ヶ原に至る。至るけどそんな遠出は出来ないので、美鈴湖の畔辺りまで、と決めていた。





ザックが大きいのは、リッジレストが一本入ってる。こいつを広げてケツを据え、珈琲を味わおうとナベやアルストも持ってきているのだ。他にはダウンジャケット、グローブの替え、12本爪、小物。里山なのに12本も爪があるのは僕が小さいのを持っていないから。





ストームゴージュ・アルパインパンツにORのクロコダイル・ゲイター、そしてハンワグのスーパーフリクション。足元の攻撃力は充分。上半身にRabのエクソダス・ジャケットを着ているので防御力も完璧。だって、モーゼに率いられての出エジプト(エクソダス)の時のように、海が割れるんだぜ?





妙義山の入り口はこの案内板が目印。標高650m、民家の玄関脇のようなところを「ちょいとごめんなさいよ」と言いながら。

古い墓地を登って行く。墓石には明治御維新前の元号も多数まじる。案内板によれば、ここは松本藩家中のうち上級武士とされた家の墓所だったそうだ。


さて、尾根に出た。


妙義山の由来は、明治の終わり頃までここに妙義山神社があったことによるらしい。

僕は妙義山古墳跡には寄らず、尾根を東に取る。松林の中を緩やかに登る小径が雪の下に隠されているのだ。

ん?

トレースがある。僕のようなひねくれ者が歩いたか。





市街地北部が見えてきた。ああ、あの辺が僕の棲むまちだ。





たっぷりの雪の中、トレースは続いている。それにしても物好きだな。

この道は、ごく近所の住人たち以外には、知られていない。国土地理院の地形図にさえ、古墳跡までの道が点線で記されているに過ぎない。前の記事で書いたような古代からの街道でもない。

なのに、道は塹壕型にえぐれ、かなりの往来があったのでは、と想像される。単なる山仕事、薪炭の調達程度の往来にしては、道が立派すぎるのだ。そして路傍に佇む石ぼとけのお姿が、この道がそれなりの要路だったことを窺わせる。




雪に埋もれた石仏。無雪期には下のようなお姿で佇んでおられる。






左、天明三癸卯六月 と読める。とすると西暦1783年、与謝蕪村の没年。一方、長谷川平蔵38歳の男盛りである。右は明治八年か。撮影は平成二十七年三月。





するとあの祠に出る。ここは標高898.5m、傍らに三角点「大村」が設置されている。この祠のことは別な時に書きかけたけど、ここにお祀りされているのは山の神さま。つまりこの尾根の道は、祈りの道なのだ。

祠の手前で、トレースの主に出会った。犬の散歩で、近所の方とのこと。





祠から先、美鈴湖まではけものの足跡を拾っていく。





標高1,050m、林道湯ノ原線に出る。冬季閉鎖中で除雪も入っていない。





ここは「美鈴湖もりの国キャンプ場」であると書かれた看板が立つ。有料施設なので無断侵入はまかりならぬ、とある。湖畔まで降りて珈琲を予定していたが、長い車道を下ったりまた登り返して来たり、気が重い。せっかくすがすがしい気持ちで祈りの道を歩けたのだ、このまま帰ろう。





往路の僕のツボ足跡。

帰路、あの祠のところでスノーハイカーズに遭遇した。聞くと僕ともご近所の方々で、スノーシュー遊びという。同じことを考えるものですなあ、と少し語り、またどこかで、と別れる。

こうして、たっぷりの雪にまみれて、至福の時間は流れていった。




4 件のコメント:

  1. 美鈴湖の近くまで行ったんですね。
    ここのキャンプ場、よさげじゃないですか。呑んだくれましょうよ。

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    1. 師匠。
      ここはオートキャンプ場です。
      ということは酒はガロン単位、肉も一頭二頭で持ち込める訳でして。
      くわ先生なんてでっかいテントに銀色の大型ネオエアー持ち込みで
      バスタブ設置のうえ紫色のラメ入り椅子まで据えて、
      それこそ大騒ぎなさるらしいですよ。
      「キャンプだったらこれぐらいがデフォ」とか仰って。
      山のテン場に肉を担ぎ上げてるのが馬鹿らしくなりそうですなあ。

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  2. 何処見ても雪少ないなぁ。
    今季は雪歩きは中止になったので多分よかったんだろうと思うことにしておきます。

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    1. さかした師匠。
      例年は、松本でも暮れのうちにいちど積もるんですが、
      一月まで里山は真っ黒でしたよ。
      それに雪ならぬ雨降ったり。
      昨日(2/12)は春一番っぽい風吹いてましたが
      これで市街地の雪はあらかた消えましたわ。

      でもですね。
      このあったかタイミングで雪が一度緩んで、
      ほんでまた冷えて締まるんですわ。
      そしたら薮尾根でもどこでも歩き放題。
      今年は「北ア深南部」っていう課題があるので
      期待もりもりです。

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