2014年5月10日土曜日

飯は山靴の傍らで

テントの前室で道具を広げながら、なにを食べようかと考える。食糧計画は組み立ててあるものの、食材、味付けを入れ替えたりはする。そうだ、スープパスタだけどトマト味じゃなくてコンソメにしよう。そう決めてストーブの脚を広げる。

僕はこのところPRIMUSのスパイダーばかり使ってる。雪の上では、百均のシリコンマットに載せる。これは表面が格子状になっていて、雪の上でまったく滑らない。スパイダーでない時はトランギアか「さんぽストーブ」というアルコールストーブなんだけど、そのことはまた書こう。

とにかく、山のテン場で朝ご飯の支度をしている一枚のカットを帰って眺めていたら、ストーブの傍らに山靴があることに気付いた。いや、山靴の存在は認識していたけれど、いま初めて気になった。



下界では有り得ないことだ。キッチンの調理台に、靴を置いたりするかい?













そういえば、飯を作る前に、まだシュラフにくるまって液晶画面をタップしながら天気予報を見ていた。電波は微弱ながら届くテン場なのだ。その時の僕はこの山靴を枕にしていた。少し高さが欲しかったので、頭の横に揃えていた片方の靴を寝かして、枕代わりに。あなたは自分のベッドの上に靴を置く? 

山では不思議なことが起きるものだ。




僕は今日、この連休に出かけた山で、僕が食べた山ごはんのことを書こうと思っていた。先日、こんな食材を担いで出かけようかな、的なことを書いたからだ。そのこともあって、山の中で食べたものを、いくつか写真には撮っておいた。僕の備忘録にもなるから。



パウチされた鶏肉レモンバジルのソテーを湯煎で温め、クノールのスープパスタ、バゲットにクリームチーズ。足りないのはブルゴーニュのルモワスネ1985ぐらいだ。


  


ほら。自家製醤油麹に一週間漬込んだ地鶏のささ身のソテー焦がし醤油味、安曇野産葱の炙り焼き添え。廣田泉の特別純米酒とマリアージュしたい味わいだ。



こうやって、僕自身の体験でしかない「山の味わい」を記録してご紹介することで、あなたご自身の予感や期待に変えることができるかもしれない。僕にはこんな確信があった。


でもしかし。あとで写真を眺めていたら、困ったことになったのだ。
また山靴が写ってる。このクッカーの中で温められているのは、和風だしで鶏のテリヤキと長葱、餅をさっと炊き、味噌仕立てにしたもの。言葉にできないぐらい、やさしく、あたたかく、冷えた身体を癒してくれたものだ。


二枚目の写真には僕の靴下が写ってしまっている。モンベルのメリノウールのアルパインソックスとかいうやつだ。


せっかくの味わいをご紹介しようと考えていたのに、山靴や靴下が写っていては話にならない。料理のビジュアルから五感をインスパイアさせて、という企てに、山靴や靴下は不必要のものだ。むしろ排除しなければならないものだ。それなのに何故!



昼寝してる時に、テントの中を撮った写真があった。

食材が入ったポーチの上に、山靴が置かれてるじゃないか! この山靴は、ハンワグ社の『スーパーフリクション』っていう最高のブーツさ。僕の宝物だ。とはいえ、食べ物の上にブーツを置くなんてどうかしている。



山の一夜。僕が或るテント場に居るかもしれない、という不確かな情報にもかかわらず、友が会いに来てくれた。この奇跡的な再会についてはまた次回に書こうと思っている。今回はこのことについて書かせてくれ。山靴だ。ブーツだ。

信じられないサプライズだった夜のディナー、やっぱりブーツが写ってる。



翌朝、僕は友に別れを告げて、山をふたつ三つ越えて、別なテン場に幕を張った。そこには別な仲間たちが迎えてくれて、山談義を肴に味わいを交換し合った。グリーンカレー、レバーのペースト、合鴨ロースの燻製、エトセトラ。


そしてそこにも、山靴は写っていた。









8 件のコメント:

  1. なるほど、考えてみれば山では飯食っていてもテント内からバーナーの横に靴があってという状況なんですねぇ。

    なというか、これは靴というよりやっぱ山飯の記事じゃないですか。
    いろいろとご馳走様でした、たぷ~り呑んでしまいましたよ。
    次回はどこがいいですかねぇ、食材をたくさん持って行くとなると
    重量を考えて近場になるのですけど、酒と乾きもんなら高所テン場でもいいのですが、
    それだとさびしいですしねぇ。

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    1. 師匠、遅くなりやしたです。休日出勤とか続いちゃって。
      ずっと考えてるんですが、いえ実現は無いと思いますが、
      北アのブナ立て尾根の下の不動沢?キャンプ指定地、良いですなあ。
      白砂、湧き水、ぼろいけどトイレ、タクシー降りてちょっと歩き。
      あんな場所が南や奥秩父にあれば最高なんですけど。
      さておきお世話になりました。まだ記事も書いてませんでしたね。
      もう少ししたら、あの臭いのを送ります。

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  2. 今回は申し訳ありませんでした。

    私はシングルなんで、年中靴がテントの中にあります。
    それであんまりおかしいと思わなかったですが、冬やらないWの人にはありえないことなんですかねぇ。

    ↑ 食材さえ準備すれば、トオルさんがきっと背負ってくれますって。
    え、私。
    私は吊るしベーコン半分くらいしか持てません。

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    1. >私はシングルなんで

      知ってます。
      銀座赤坂から浜松名古屋、キタミナミまでこれで通しておられるそうで。
      「困っての。不動産から株券国債預貯金書画骨董、ゴルフ会員権....
       継がせるものが居らぬので、国庫にでも入れてもらおうか、ふふ」

      僕は先生のようにシングルではないので、夜の街に出ることもありませんし
      夜の蝶たちに札ビラ切ってみせることもできませんし、
      吊るしベーコンみたいな硬いので遊んだりもしませんし。

      次回はどこで酌み交わしましょうか?

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  3. 今回もお世話になりました!いやあ、おいしいご馳走を味わわせていただけて感謝感謝でした!地鶏のささ身のソテー焦がし醤油味、安曇野産葱の炙り焼き添え。 雪上野外シチュエーション。至福のひとときでありました。

    私の場合、くわさんの残した吊るしベーコン半分のさらに半分ぐらいしか持てないですが、またお山で会えますようにと念じて日々を過ごしてまいります~!

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    1. お嬢。遅くなりました。休日出勤やらナニやらで。
      楽しく過ごさせていただきました、感謝であります。

      たましいの置き所、と申しましょうか。
      あの日、あの山のあの場所に、たましいひとつ、おいてきた
      今日はとってもいそがしいけど
      明日もとっても忙しいけど
      時間ができたらあのたましい、取りに行こう

      そう念じながら過ごす下界の時間の味わい深さを知る歳になりましたよ。
      Clapton の Wonderful Tonightを聴きながら。ぐっない。

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  4. 黒光り一発太郎2014年5月23日 17:03

    隊長!とてつも遅くなりましたが、どうもありがとうございました!あの朝、どこからともなく歌声とともに現れて頂いた時は、(すでに酔っ払っておりまして失礼いたしましたが、)大変に嬉しい限りでした。またの機会を楽しみにしております!

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    1. えっ!? そんなに黒光りしてるのにたった一度しかできないの? 太郎さん。
      すみません遅くなりまして。休日出勤とか運動会とか運動会とか、そんなので。

      選曲をミスったことはお赦しください。
      たしか「なごり雪」だったように覚えていますが、次回はですな、
      Johnの『Imagine』を清志郎さんが日本語で歌うやつです。

      みんなが、そう思えばーー
      かんたんなこっとー  さっあああああーーー

      次回は鯨企画ということで、大変に楽しみにしておる次第です。
      そういえばリーマン時代、ドキュメンタリー映像制作をしておりましたが
      当時から捕鯨への抵抗勢力はかなり凄まじいもので、
      カウンター企画で「キャッチャーボートの船上から撮影された捕鯨の記録」
      っていうやつを素材入手しまして、こいつを売るか? って企画会議に出しました。
      上司は援護射撃してくれたのですが、トップから「会社が潰される」ってダメ出し。

      人生はほろ苦いものです。

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