2016年7月7日木曜日
梅仕事、2016
梅雨も後半に入ると、とても落ち着かない。落ち着いてなんか居られない。
庭の、この紫陽花の樹が時期を知らせてくれる。今年も梅を仕込む日が近づいて来たと。
本当は箱買いで10キロ、20キロと仕込みたいのであるが、近隣農家の無人販売所には少量しか置いてない。だから、1キロ、2キロと手に入れて、熟し具合に合わせて仕込んでいく。
僕の梅仕事は、梅干し作り。毎年可能な限りの熟し梅を仕込んで、干して、保存する。ほんとうは、保存できるほどに仕込んだのは一昨年からで、三年前の梅干しは、もう無い。昨年からはある企てがあって、僕がこの世を去った後に、僕が仕込んだ梅干しが発見される、というシナリオを描いている。僕の子供たちはまだ小さい。こいつらが長じて、あるいは未来に孫が生まれて、「お、爺ちゃんの梅干し!」となる展開を思いめぐらせているのだ。そのためには、長期保存が可能な20%の梅干しを作る必要がある。減塩梅干しは、そんなに永く保たない。
上の写真、手前のお椀の中身は、去年、一昨年の梅酢である。塩をまぶすのに、これまではホワイトリカーを使っていた。これを今年から梅酢に置き換えたのだ。洗って乾かした梅は、まず竹串でなり口のへたを取る。ここを梅酢に浸す。凹みに塩を押し付けて桶なり瓶なり、袋なりに詰めていく。少量を仕込むのには、Zipロックの袋を用いる。1キロにLサイズがちょうどいい。
今度は重しを載せて、一晩置く。こんな風に。開口部をしっかりZipしないと梅酢が漏れる。
翌日には、こうなっている。空気を丁寧に抜いてまた密閉する。
ちまちまと梅を手に入れるごとに仕込んで、梅酢が上がると空気を抜いた状態で書斎の棚に放り込む。袋を寝かせると、梅酢がこぼれたりしてよろしくない。念のためポリ袋に入れて、立てておく。
未来への保存用、友人たちへの贈り物用以外に、自分の弁当に詰めていく自家用を仕込む。半額売りだって構わない。傷んだ梅を取り除いて、残りで仕込む。
熟し加減にかなりのバラツキがあった。それでも10キロを確保。追熟が上手くいくとは限らないので、そうだ、青いのを梅酒用に少し....。
これも塩分20%。大きな樽一杯に詰め込んでいく。
そして残った青梅を、ホワイトリカーと氷砂糖で。
家中が、仕込みの場所に使われている。もしも、の話で恐縮だが、家を建て替えることが叶うなら、別棟で梅干し小屋を作りたい。水洗い、乾燥、へた除り、梅酢浸し、塩まぶし、樽詰め、保管、天日干し、瓶洗浄、瓶詰め長期保存、そしてラベル作成までを行う専用スペースだ。夏の間、そこに籠って過ごすのだろう。
こんな風に、梅干しを仕込む、という営みは、去年、一昨年の梅仕事を思い出しながら、今年の梅と向き合い、梅の顔を見て行う。来年や数十年後のことを思い描き、一粒ずつていねいに扱い、つぶれ梅が出ても棄てずに漬ける。ひと月から半月先に土用干しを控えているため、梅雨明けの空のことも気に掛かる。自分がどの時間軸に身を置いているのか、解らなくなってしまいそうだ。それほどまでに、梅の具合と時の移ろいとに、揺さぶられる。でもこれが梅仕事の醍醐味。そういえば、去年の完成品を、まだ友人たちに送ってもいない。許せ、と心の中で詫びながら、また今夜も少し仕込む。
水上勉さんが書いた言葉にあった「梅に絡んで生きる」ということを、僕は少しだけ、理解できたようだ。
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師匠、お久しぶりです。
返信削除もう梅仕事の季節ですか?
私は、まだ師匠ほどには人間が熟していないので、梅干しに対するこだわりは持ちあわせておりませんが、こうして師匠の記事を読んでいいると、写真にうつっている梅の一つ一つの果実かすごく麗しく艷やかで個性を持ったものに見えてきてしまいます。多分一つ一つ微妙に違った味わいを持っている梅干しになるのでしょうね。
いつか、いつか遠い将来でもいいから、その師匠手作りの20%の梅を入れたおいしいおにぎりをもって信州の山を歩いてみたいものです。
ちなみに、こちらは紅鮭の帰って来る季節になってきました。この1ヶ月くらいが決戦の時です。
アラスカの兄貴。
返信削除ご当地でも夏へと移り変わる頃でありましょうか。
>人間が
いえいえ僕などは熟す替わりに完全な腐敗状態でありまして。
>いつか、いつか遠い将来でもいいから、
夢は、思い描くものです。
もしそのようなミラクルが叶うのならば、何日も掛けて稜線を旅して、
歩きながら酌み交わしながら、世界中を旅なさいました兄貴の語りが楽しみでなりません。港港の武勇伝とか、見えるのが水平線だけの世界とか、そりゃあもう、期待もりもりであります。
昨夜観ていた、NASAのムービーのURLを貼付けておきます。国際宇宙ステーションから、地球を見ています。都市の夜の明るさ。随所で炸裂する稲妻の輝き。美しいものです。
そして極地の上空を飛ぶとき、エメラルド色の光の帯が、揺れています。
「ああ、これはオーロラだ....」と気づいたとき、なぜか全身に鳥肌が。
この感動は、言葉とかちがうものに例えることが出来ません。
https://www.youtube.com/watch?v=PBJAR3-UvSQ