2016年9月10日土曜日
美味炸裂する赤い奴を仕込む
その調味料に、まだ名前は無い。
我が家では「赤い奴」と呼ばれ、僕によって中毒者となった人々からは「あ、あの... あれ...」と称されている、純和風の唐辛子発酵調味料である。
冒頭に掲げた写真は、ある日の僕の晩飯である。焼き肉に添えられた赤いペースト。種のようなものが混じっている。過去にもご紹介したように、乾燥させない赤唐辛子、青唐辛子を醤油麹に漬けておき、ペーストにしたものだ。
冷や奴にも載せて味わう。この豆腐、信州松本・原という女鳥羽川流れる田園地帯に工房を構える、合名会社 富成伍郎商店という豆腐屋のお豆腐である。富成のお豆腐というのは、昨年、日本一美味い! という評価が下されたお豆腐である。拙宅のご近所でもある。日の本一と讃えられるお豆腐に、唐辛子を載せる? 例のグルメ漫画の展開であれば、「ふん、これほどまでに繊細な味わいを、唐辛子で食するとは、田舎者め。片腹痛いわ」となって、その倅が「ならば本当に美味い唐辛子調味料というものを教えてやる!」となる。
漫画と違うのは、ここで活躍するのは「岡星」のあるじではなく「偏執手帳」のあるじである。本当に美味いものは、ここにあるのである。
秋の兆しとともに庭で収穫される、あるいは市場に出回る唐辛子系の作物を、僕はひたすら集め、探し求めるのである。
これは長さ5-7センチぐらいの品種。とにかく辛い。タカノツメに匹敵する。
醤油麹にしばらく漬け込んでおく。
この漬け汁、実はきわめて貴重な漬け汁である。麹が醸した多彩で多様なうまみ成分が溶け合い、そこに辛みを忍ばせている。破壊力は凄まじく、刺身、納豆、おしたし、その他すべての醤油活用場面に大活躍である。たとえばぬくいご飯にこの醤油を垂らすだけで、もうたまらん。新米の収穫を迎えたこの時期にこんな事を書けば、再来年からはコメの作付け面積を増やすぐらいでは済まなくなる。
数日漬け込んだ唐辛子を、袋に移しておく。明日あたり、フードプロセッサーに掛けよう。
今年から新しい挑戦も。北信濃や越後の山際で栽培されている「ぼたんこしょう」と呼ばれる品種。肉厚の皮は甘いが、種と白い果肉が凄まじく辛い。青い皮、赤く熟した皮、そして種と果肉の三つに分けて拵えてみよう。
そしてもちろん、王者タカノツメ。乾燥前の完熟品を漬け込んでやれ。
むはははっはははは。
麹たちよ、唐辛子なら好きなだけ蹂躙するが良い。
僕によって中毒にさせられた被害者たち、という書き方をした。筆頭は家人で、僕が隠している赤い奴を盗もうとして、しばしば叱責を受けている。職場の或る人は、これを定期的に受け取るために、困難な職業上のミッションを受け入れている。ご近所の複数人は、旅行や出張の折の(やや過剰な)土産物を忘れない。本当に美味なるものは、僕をしあわせにするのである。
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