2016年2月13日土曜日

烏帽子岩の神さまにお供えを


三週連続のスノーハイク、今回は美ヶ原北側の山塊に突き出た「烏帽子岩」を目指して雪の尾根道を拾う。平成28年2月6日土曜日のことだ。

烏帽子岩という名称は、美ヶ原の王ガ頭のそばにもあるけれど、この日に足を向けたのはもっと北の方、三才山峠のほど近く。にょっきりとしたピナクルには、烏帽子大権現様がお祀りされていて、山の神であると同時に女鳥羽川水源の水神様として、古くから崇められてきた。

ちょうどこの週末、僕の友人たちが奥秩父の一角で野宴を開くという。駆け付けることの出来ない我が身を嘆いてもどうにもならん。せめて、野宴の盛会を願い、山の神様である烏帽子岩大権現様にお供えを携えてきたのだ。




標高910m、女鳥羽川本沢にかかる橋を渡る。トレースがあるのは、きっと物好きなスノーハイカーとみた。この先で道は地獄谷に向う細道を右に分け、さらに尾根の取り付で左右二股に分かれる。左は送電線の巡視路で歩きやすく、今回はこの道を選ぶ。右の道は古くからの炭焼き場を過ぎてから、どえらい急斜面をジグザグにあがる道で歩き難い。『美ヶ原高原ロングトレイル』の公式ルートはなぜかこちらを通してある。




樹林越し、女鳥羽川本沢を挟んだ山体は戸谷峰1629m。主ピークは右奥の高まりの陰になっている。眼下には国道254号が走る。




本沢に落ち込む斜面をトラバースしていく。




すこし前に、ここらの森と云うか山というか、みんな氷漬けになってしまった。雨氷というらしい。梢に付着した氷の重みは、樹木一本当たり最大1トンを超えてたというが、この重みで倒木がそこいら中に、ほら。




雪質も、厚いパウダーの上に硬い層が乗ったモナカ状態。ツボ足では進めなくなってきたので、標高1,200m付近でワカンを装着。潜り込みがなくなった。僕が密かに「つぼあ氏」と呼んでいたすこし前のトレースは、途中で消えていた。往路を戻ったんだろう。




浅い谷の奥に湧き水がある。一年を通じて涸れているのを見たことがない。




これが氷漬けの梢、雨氷。森全体が凄い輝きに包まれて美しいけど、枝先の小さな芽が可哀想だ。




ひかりの森。




僕が「広場」と呼んでいる1,350m地点。気持ちの良い場所だ。地形図ではこの先へ、1522ピークへと道が記されているが、実際の踏み跡はピークを巻いて尾根に出る。




ぎゅっぎゅっと雪を鳴らしながら、黙って歩く。というのは大嘘で、上田正樹さんの『悲しい色やね』を歌っていた。




樹林越しに戸谷峰ピーク。だいぶ標高を稼いできた。




行く手に誘うような、これは獣たちの足跡。




振り返ると、僕のワカン跡。




テルモスの紅茶を飲んで温まるひととき。白状すると、もう帰りたくなっている。モナカ雪が手強いのだ。ん? 足強いの誤りか。




いや。僕は進む。友のため、野宴のため、山の神様にお供えをしなければならん。




この向こうには、槍から穂高の稜線が眺められるのだけれど、安曇野の向こうには雪雲が出ていて常念さんも見えない。




行く。お供えを。




しかし午前11時。これまで新雪の時でも、こんなに時を要したことはなかった。雪質に破れるか僕のこころ。




もう泣きたくなってる。




標高1,500mで尾根を乗り越す地点に出た。ここからほぼ水平に1キロちょっと、稜線の南側を巻く感じで、烏帽子岩はすぐそこ。

ぐぬぬぬぬ、僕が決めている引き返しタイムリミット11時11分が、非情にもバリゴに表示されている。友よ、許せ。涙を飲んで引き返す。




しかし、お供えを山から持ち帰る訳にもまいらぬ。

山の神様はお赦しくだされよう。
むしゃむしゃむしゃ、うめえええええ。
くるみ大福、大正義。




朝の、尾根取付きの二股まで戻ってきた。




女鳥羽川を渡り返す。




三才山一ノ瀬集落最奥の、現役炭焼き小屋。釜からは煙が立ち昇っている。右側の赤い機械、「まきわりかあさん」って書いてある。いいね。




夏きざす頃の烏帽子岩大権現様。今回はお供えを大前に差し上げられなかったけれど、くるみ大福を、いや、山の仲間たちを見守ってくださり、ありがとうございました。





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