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2017年9月17日日曜日

昼下がりの江戸銀


坂道を下ってバス通りを渡る。ひとり、角の白い暖簾をくぐると、そこにはたましいを震わせる味わいが待ち受ける、魔界だ。






「いらっしゃい、大間の本鮪が入ったよ」

俺はカウンターの椅子を引きながら「すこし切ってくれないか」と主人に告げる。そして冷えた地酒を頼むことも忘れてはいない。主人は大間の本鮪を引きながら呑気なことを言う。

「昼間っから飲めるなんて、良い身分だねえ」

俺は静かに切り返す。「ふふふ、自分へのご褒美さ」

タフな週末だった。地区行事のために、土曜日には30人前のカレーを作り、夕方は焚き火に飯ごうを載せて飯を炊いた。今朝はそれら鍋釜を汚した煤を洗い流し、すべて片付け終えたのは日曜の昼だ。これ以上、寿司屋の暖簾をくぐるのにふさわしい状況はあり得ない。


大間の本鮪の赤身は、噛み締めるほどもなくほどけて、俺の脳髄を融かしていった。冷えた地酒『岩波』と響き合う。カウンター席で俺は、身悶えていた。





嗚呼辛口よ、響くがいい。奏でるがいい。





豆鯵の南蛮よ、俺はむせび泣く。





四合を空けて、握りを頼む。



このかんぴょうが絶妙なのだ。そして齧りかけの卵焼き、真っ先に箸が出てしまってぱくぅである。落ち着き払った振りをするのは、もう限界だ。「あぐうぅ」「うはうぅ」と奇怪な呻きを漏らしながら、俺は握りにぱくつく。


いきなり主人が斬りつけてきた。

「こはだの締まり具合、試してみる?」



もう恍惚となる締め具合。選び抜かれた素材を、技がここまで磨き上げるのだ。たまらん。





松本江戸銀。お近くの方は、ぜし。