2016年10月16日日曜日
火星でねこを売る
或る夜。
僕が帰宅すると、中学生の大豆が茶の間で夜食を喰っていた。あぐらにねこを載せて玉子掛けご飯をぱくつく姿は、なんともたくましいものである。
「大豆、ただいま」
「おう、おやじ、おかえり」
ウイスキーでマグを満たし、部活の事などを話していると、大豆は火星旅行だか火星移住だかの話を振ってきた。TVでやってたらしい。大豆の膝のねこが火星と聴いて耳をぴくりとさせた。どうやらこいつも、火星旅行に興味を抱いているようだ。
「そうだ大豆よ、おまえ大金持ちになれるぞ、ねこを売って来い」
「へ?」
「だからさ。この辺野良猫が多いだろう。こいつらをリアルねこ集めしてな、さらに増やすのさ」
「へ?」
「それで、火星に運んで売ってくるのだ。火星人はねこを見た事が無い。絶対欲しがる。」
「あ!」
「考えてみろ。
もし、生きてるティラノサウルスの赤ちゃんが売ってるとしよう。
なら、世界中の大富豪が、いくらでも金を出す」
「うほ!」
「同じことが火星でも起きる」
「おおお!」
「それでな、マネーの替わりに、火星にしか存在しないレアメタルで払ってくれる。おまえは地球に無かったレアメタルを持って帰る。世界中のハイテクと軍事産業を支配できる。おまえは地球の支配者になれる」
「うおっしゃぁぁぁ!」
この勢いで、ねこは振り落とされた。火星に売られていくという運命を、知っているのだろうか。知っているならば、どう受け止めているのだろうか。ドナドナなのか。スプートニク2号に載せられて地球周回軌道を回ったライカ犬のことを聞かせてやろうか。そんな思いがよぎったが、僕と大豆はねこを売って儲ける話の方が大事で、ねこを放っておいた。
「いろんな種類が居た方が良いが、雑種で良いよ。丈夫だって言うじゃないか」
「三毛猫とか高く売れそうだ」
「あれだぞ、レアメタルでいろんなブレークスルーが起きるな。充電不要のバッテリーとか」
「CPUがもっと早くなるとかな」
「こんなやつでも、買ってくれるかな」
「向こうじゃ美意識も違うだろう、地球で最も醜いねことして、一番高く売れる」
夜遅くまで密談は続いた。ねこはふたたび大豆の膝に戻ってごろごろ唸っていたが、眠くなったのだろう、大豆の部屋に行ったようだ。
「おやじ、おれ寝る。楽しみだよ」
「おやすみ、楽しみだな」
数年後には、僕のせがれが地球に無いレアメタルを手に入れる。僕は仕事を辞めて、彼のマネージャーになる。莫大なマネジメント報酬をせしめて、そうだな、南の島でも買って優雅に暮らそう。
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