
近所で受診すると、何か起きているらしいとのこと。
すぐさま大きな病院に移される。
そこはヘリポートを備えたでかい病院で、数時間は救急で処置を受けた後、選択肢も与えられずに入院となる。着替えも用意していない。
そして希望した訳でもないのに快適な部屋に導かれた。

点滴を受けている合間に、頭上のホワイトボードを見上げて絶句した。絶句どころじゃない、絶食と書かれている。
くらくら、血の気が引く思いで自分の置かれた状況を整理する。もちろん、医師と看護士から解りやすい説明を受けた。

山の上ホテルもかくや、と勝手に思い巡らせたほど快適な空間。誰にも気兼ねなく静かで穏やかな時間を過ごすことが出来た。
しかし、腹が減る。
点滴のブドウ糖アミノ酸で代謝の維持は出来ているのだろうが、たとえばポテトチップスのパリパリとか、ナッツ類のボリボリとか、そんな食感が焦がれるように欲しい。舌と顎がそういった喰い物を求めてやまないのだ。

暮れまで幾日、と沈む夕陽を惜しみながら。
やがて病状は好転し、粥が許され三食をいただけるありがたい身の上となった。

退院の日。点滴の針が抜かれ、バリゴのリストウオッチを装着する。
おっと、ベルトの穴ふたつ分、腕が細くなっていた。喰わなかったこと以上に筋肉を全く使わなかったからだろう。
そんなこんなで、今年の暮れを迎えることとなった。諸賢にはどうか穏やかで健やかで、舌や胃袋がよじれあがるような渇望など伴わず、満ち満ちてしあわせなお年越しを。
そして来る年を、未だかつてなきほど良き一年となさいますよう。合掌。