秋深き快晴の伊那谷を走る。車窓には薄が揺れている。
鋸岳、甲斐駒、仙丈、白嶺三山、塩見荒川聖光までのパノラマを堪能する。3,000超えのピークいくつかに冠雪も。
一方の木曽山脈、宝剣のあたりは大変なことになっていた。
空木も。
恵那の長いトンネルを抜けると、中津川。御嶽山の噴煙は東側に流れていた。
見たことの無い風景。一瞬一瞬がうつくしい。
ハイウエイオアシスに観覧車があった。娘の小豆が希望するので、しばし空に舞う。
名古屋港を走る。埠頭には鋼鉄のキリンたちが佇む。
あああ。見知らぬまちの見知らぬ空。
やがて伊勢路に入り、宿泊地に到着。チェックインを済ませてから散歩に出る。
これを見たかったのだ。たまらん。
こういうのも、たまらん。
ううううう、たまらん。
焼け落ちる空に、嗚呼旅情。
松坂牛とやらのカルビを炙って腹をくちくし、宿に戻る。朝に眺めた南アルプスの山々を思い出しながら、ちびり、ちびり。ぐびり。
翌朝、少し移動して所用を済ませる。昼食に松坂牛とやらのしゃぶしゃぶを堪能し、ふたたび高速道路へ。往路を戻る格好で、木曽川の橋梁から北をぱちり。この川の最初のひと滴は、信州の鉢盛山から流れ出る。その山頂は、僕の棲むまつもとのひと区画でもあるのだ。川の、雨粒の長い旅にまた感動。
おいキリン、何時かまた逢おう。
往路で観覧車に乗った場所に、帰路も立ち寄る。まだ幼い娘が所望したのは、メリーゴーランド。おまえは何を見、何を感じ、どんな糧を得た?
三河から美濃に入る頃に、また落日を見る。
カーブの続く中央道から長野道に入り、松本インターを出た。脳内にはあの歌が流れる。ヘッドライト、テールライト、旅はまだ終わらない。
旅はまだ終わらない。僕はこの二日間に伊勢路を通り過ぎたたけだが、旅から帰っても旅は続く。いまこの瞬間にも、川が流れるように、風が流れるように、時が移ろうように、旅を続けている。