2014年10月30日木曜日

ぶらり伊勢路

所用があって、伊勢路へ。








秋深き快晴の伊那谷を走る。車窓には薄が揺れている。







鋸岳、甲斐駒、仙丈、白嶺三山、塩見荒川聖光までのパノラマを堪能する。3,000超えのピークいくつかに冠雪も。






 一方の木曽山脈、宝剣のあたりは大変なことになっていた。





空木も。




恵那の長いトンネルを抜けると、中津川。御嶽山の噴煙は東側に流れていた。





見たことの無い風景。一瞬一瞬がうつくしい。








ハイウエイオアシスに観覧車があった。娘の小豆が希望するので、しばし空に舞う。





名古屋港を走る。埠頭には鋼鉄のキリンたちが佇む。




あああ。見知らぬまちの見知らぬ空。

やがて伊勢路に入り、宿泊地に到着。チェックインを済ませてから散歩に出る。




これを見たかったのだ。たまらん。




こういうのも、たまらん。




ううううう、たまらん。










港には灯台があった。たまらん。




焼け落ちる空に、嗚呼旅情。



松坂牛とやらのカルビを炙って腹をくちくし、宿に戻る。朝に眺めた南アルプスの山々を思い出しながら、ちびり、ちびり。ぐびり。






翌朝、少し移動して所用を済ませる。昼食に松坂牛とやらのしゃぶしゃぶを堪能し、ふたたび高速道路へ。往路を戻る格好で、木曽川の橋梁から北をぱちり。この川の最初のひと滴は、信州の鉢盛山から流れ出る。その山頂は、僕の棲むまつもとのひと区画でもあるのだ。川の、雨粒の長い旅にまた感動。





おいキリン、何時かまた逢おう。








往路で観覧車に乗った場所に、帰路も立ち寄る。まだ幼い娘が所望したのは、メリーゴーランド。おまえは何を見、何を感じ、どんな糧を得た?













三河から美濃に入る頃に、また落日を見る。






























カーブの続く中央道から長野道に入り、松本インターを出た。脳内にはあの歌が流れる。ヘッドライト、テールライト、旅はまだ終わらない。



旅はまだ終わらない。僕はこの二日間に伊勢路を通り過ぎたたけだが、旅から帰っても旅は続く。いまこの瞬間にも、川が流れるように、風が流れるように、時が移ろうように、旅を続けている。





2014年10月13日月曜日

弁当録


毎朝の弁当の構成に悩むことが多くなった。
下ごしらえを含めた調理時間と味わいのバランスが難しく感じられる。どうやら一種のスランプに陥ってるのだろう。頭の中をすっきりさせるために、備忘録的に僕の弁当を延々とアップしてみる。




7月6日。自家製肉団子は豚ひき肉に味噌とオイスターソースを混ぜ込んで、甘酢のあんかけ。豚ロース肉のソテーには自家製の紅生姜を添えている。そういえば梅干も自家製、シシトウは自家菜園。




 7月18日。この日はやる気がなくて、鶏そぼろご飯に自家菜園の青葱、セブンのきつねうどん。



7月22日。焼きたらこの破壊力といったらもう。庭の青葱入り玉子焼きと高菜漬け炒め、梅干、シシトウ 。チャーシューはセブンプレミアム。



7月25日。似たようなおかずばかり。 


 7月29日。この日は弁当を作りさえしなかった。セブンのコロッケ、パン、パッパーハムみたいな。ヌードルも当日朝に購入。計画的犯行とみえて、ヨーグルトとトマト、調味料としてトンカツソース、粒マスタード、芥子バター、マヨネーズは何故か家から持ち出している。



7月30日。出し巻き玉子、鶏の唐揚げ、自家菜園男爵のベーコンチーズ焼き、ウインナ、自家製梅干、冷凍のコロッケ。



7月31日。セブンの豚骨、庭の青葱、高菜ご飯。 



8月4日。葱入り玉子焼き、鶏の唐揚げ、前の晩の春巻きの残り、自家製梅干と副産物の自家製ゆかり。 



 8月9日。豚ロースの生姜焼き、庭の茄子とシシトウの炒め、自家製梅干。




8月20日。鶏の唐揚げ、ミラノハムの厚切り焼き、ソーセージ、つぶれ梅、おかか。















翌8月21日。豚ロース生姜焼き、庭のピーマン。青唐辛子の佃煮(辛過ぎて....)、高菜漬け炒め、ベーコン。




ああああ。なんてつまらない弁当ばかり作ってるんだろう。さて明日は、どうしたらいい? 







2014年10月5日日曜日

『縄文の力』/『北アルプスの渓谷をゆく』

ムックネタをふたつ。

普段は書店に足を踏み入れないように注意している僕でも、やむを得ず書店の棚を眺める場合がある。指定された待ち合わせ、時間つぶしなどなど。書店を敬遠しているには理由がある。僕はかつて重度の活字中毒者だったのだ。信州に移る時にほぼすべての書籍を処分して以来、できるだけ本を手にしない、を心がけてきた。しかし、不注意な一冊の購入が「土手に開いた小さな穴」となって.... あれから何度も後悔を重ねてきている。




そんな僕が、いちばん怖れているのが平積みにされたムックたち。料理本、酒やワインの特集、工芸、そして山関係。なかでも無双に凶悪なのは、平凡社の『別冊太陽』。特に芸術家、文学者系特集。専門に扱っている神田の古書店とか入ったら無事に出てくる自信がもう無い。そのぐらい恐ろしいのに、松本パルコの地下で偶然表紙を見ちゃった。平積みのやつを間近に見て、不注意にして手に取ってしまった。



この表紙のヴィジュアルで瞬殺された。縄文のゆるキャラとかじゃなく、縄文人が数の概念を持っていたことを示す物証。


中身を開いて悩殺された。


写真に記事に、悶絶死するはめに。


おいお前!






いやあ。丁寧に企画をまとめてきちんと編集されたムックというのは、美しいのですよ。



もうめろめろ。でろでろ。


表紙コピーにあるように「自然との共生を一万年続けた縄文コスモロジーの英知」が切り口。ヴィジュアル化しやすい道具や造形も重要な要素だけれど、彼らがどのように世界を捉え、どんな暮らしを営んでいたのか、にきちんと焦点が当てられている。さまざまなテーマごとのコラムあり、代表的な遺跡の発掘研究事例の紹介あり、現代考古学のフロントエンドが垣間見える。

僕にはとても印象深かったコラムがある。北海道で発見された肢体が不自由な人物の遺骨。彼は自力で歩いたり移動したりできない状態で、寿命尽きるまで十数年を生きていたらしい。つまり、手厚い介護を受けていた、と考えられるという。漁労採集によってかろうじて命をつないでいたようにも受け取れる縄文の時代、ひとびとは他者に対する温かいまなざしを持っていたのだろう。

でもやはり何より、縄文遺物のヴィジュアルが凄い。

平凡社 2013年11月15日 初版第一刷発行





 ■ □ ■

山道具屋が山関係の書籍雑誌を豊富に揃えているので、普段からギア系と燃料系以外では下を向いて歩かねばならない。うかつに新しいテントの展示とか何かに引き込まれたら危険だからだ。それでも地元の新聞社が発刊したやつがレジ横にあって、ゴング直後のフックを喰らった唐突さでまさかのダメージを受けたことがある。


 
圧巻なのが表紙。残雪期の劔岳池ノ谷。撮影場所は左俣だろうか、三の窓が文字通り窓となっている。すんげえ。


ふんだんに使用されている空撮写真。あふれでる生唾。








鹿島槍荒沢奥壁だって。もう、はぁはぁ。




源流部への遡行も。個人的には遡行図を載せて欲しかった。え? 自分で行って書け? ごめんなさいそうします。



北アルプスを水系で分け、黒部川、早月川、常願寺川、梓川、中房川、高瀬川、姫川、高原川、乗鞍岳の滝と湖沼それぞれで章立てされている。地理的地質学的な河川の成り立ちや人間との関わりなどの解説に続き、名だたる名所はもちろん、秘境中の秘境に分け入って撮られた圧倒的な写真の数々。それぞれの水系への理解を深めてくれるとともに、ヴィジュアルがとにかく凄い。文は、菊地俊郎さん。

信濃毎日新聞社 2012年7月14日 初版発行



2014年10月4日土曜日

肴は炙った烏賊でいい

するめ烏賊を、茶褐色のどろどろとした漬け汁から引き上げながら、僕はごくりと生唾を呑み込んだ。

なんという甘い香り。

この香りは、醤油に浸された麹(こうじ)が醸したものだ。醤油麹。前項で僕は、この醤油麹に漬け込んだ唐辛子のペーストのことを書いた。漬け込んだ唐辛子をさらに処理して調味料として使う、という面倒くさい話だが、醤油麹自体をシンプルに使う手法もある。こいつは、肉や魚の下ごしらえにおいて、驚異の旨味を生ぜしめる悪魔の調味料でもあるのだ。



これ。容器の中には1カップの醤油麹と二杯のするめ烏賊。烏賊の胴は開いてゲソ、肝を切り分けてある。





数時間、このまま冷蔵庫で休ませたあと、漬け汁から引き上げる。麹の巣でもある米粒は、なにやらムシの幼体にも見えてしまうので取り除く。

こいつを笊に広げて、しばし屋外で風に当てる。ねこに見つからないように、少し高いところで。





夜の帳が降りた頃。庭に出て干しておいた烏賊を取り込む。




あやかし、と表現したいまでの照り。なぜか、眺めていると背徳感が僕のこころを覆う。炙って味わいたいところではあるが、ケムリの問題もあるので表題詐欺の誹りは免れ得ないのだが、フライパンで焼く。




肝は崩れてしまうので、焼き魚用のアルミホイルに載せておく。こうすれば、崩れた肝にゲソを絡めて....




あぐぅ。

もうこの辺で我慢ならず、蕎麦猪口を満たした酒を呷る。酒はぬるめの燗ではなく、冷蔵庫できりりと冷やしてある。銘柄は、信州北安曇池田の地酒、大雪渓酒造の『山乃酒大雪渓 そば前酒 安曇野伏流水仕込み』。







ううううう。



しみじみ飲めば しみじみとぉおおお....


ある宵の、しみじみ染みる味わいであった。醤油麹は、袋売りされている500g程度の麹を1Lの醤油に混ぜ込み、一週間程度寝かせてから使用する。好みで配合を変えたり、生姜や唐辛子を混ぜたり。真夏は常温保存中に黴が生えることがあるので野菜室に置いておく。なお、僕は昨年秋に仕込んだ醤油麹に、適宜、醤油または麹を加えて使い続けている。




今が旬の生鮭のハラスも格好の漬け材になる。このほか鶏の手羽先、ささ身などもお試しあれ。